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【News127】韓国総選挙の結果で考えた元脱北者の選択  北朝鮮難民救援基金理事 松原京子

はじめに 

 4月10日、韓国では第22代国会議員を選ぶ国会議員総選挙があった。

韓国国会を構成するこの選挙は、尹錫烈(ユン·ソンニョル)大統領の政権3年目に行われる選挙で、国政運営に対する中間評価であり、今後の国政運営への影響力確保が決定される重要な選挙だった。

 投票結果は、政権与党の「国民の力」の惨敗と巨大野党「民主党」の勝利で終わり、保守与党が次の政権を引き継ぐことができるのか、さらに不透明になった。

保守党の敗北で対北、対日政策の行方は⁉

 日本に住む元脱北者として私がこの選挙に関心を持つようになった理由は、保守政権の没落がもたらす対北朝鮮政策と韓国内の脱北者に対する支援政策、対日政策の変化に対する憂慮のためだ。

 先の文在寅(ムン・ジェイン)政権時代の韓日関係がどれほど騒がしかったか、対北政策はどうだったのか?北朝鮮に引きずられて屈辱的で偽装された平和とショーにだまされて「政治遊び」をした状況が再現されるのかが心配なのは当然なことだ。

 最近加入したビジネスクラブの韓国企業研修による団体行動日程でソウルを訪れた。自由時間が制限されているので韓国に住んでいる元脱北者の義姉に選挙結果に対する脱北者たちの反応も聞いてみたくて、わざわざ仁川空港に迎えを頼んだ。

 仁川空港から研修セミナーの会場である現地企業のある龍山(ヨンサン)までは1時間半ほどかかるので、その時間を有効に使わせていただいた。

 おかげで彼女と総選挙の結果をはじめ、最近の北朝鮮のニュースを聞くことができた。

 

元脱北者たちが「民主党」を支持する理由

 元脱北者たちが民主党を支持する理由を尋ねたところ、元脱北者の韓国政治に対する無知のためだという。それでも国が豊かになるためには、市場の自由を認め、原則的な対北朝鮮政策を標榜する保守が政権を握らなければならないということだ。

 民主党は、北朝鮮の機嫌を伺いながら対北朝鮮政策を作り、市場に対しても政府が介入しようとするため、国が発展しにくいという。なるほど……私も同感だ。

民主党政権になれば脱北者支援政策は⁉

 「もし民主党が政権を握れば、今の脱北者支援政策が変わるのか」と聞いた。

答えは、対北朝鮮政策には変化があり得るが、脱北者支援政策の基本は変わらないという。

民主党が政権を握れば、当然脱北者に対する差別が激しくなり、支援政策も疎かになると思っていたが、意外で幸いだった。

3月には物価上昇と北朝鮮離脱住民の安定のために各種支援政策がさらに細分化され優遇政策が実施されたという。

 定着支援金も以前は600万ウォン(日本円で68万円)だったが、今年3月から1000万ウォン(日本円で113.3万円)に引き上げられ、その他に住居支援金、就職支援金、学者支援金をはじめとする各種支援政策が発表され、元脱北者にはむしろ一般韓国民より優遇されている機会が多いという。

元脱北者は政府の方針に追いついていない

 問題は、このような政策をうまく活用しなければならないのは元脱北者たちなのだが、脱北者一人一人の理解、意志が、政府の政策に追いつかない。これがとても残念だと言う。

 彼女は韓国でこのような政策をうまく活用して成功の基盤を作った。その上頭の回転も良くて努力家、熱心に勉強して社会福祉士資格を取得して、介護施設、老人福祉施設などの福祉事業を展開する。雇用する職員が30人にもなり、政府からも定期評価最優秀賞を受賞し、信頼される福祉機関のトップになって、社会貢献の寄付も熱心に行っている。

自立の強い意志と人生に希望

 15年前にNPOの北朝鮮難民救援基金の支援で私の義姉と息子は、韓国に入国し、私たち夫婦は日本に入国許可を得た。義姉たちと私たちの違いは、義姉と息子たちは、北朝鮮難民救援基金の影響と、駐ラオス韓国大使館の取り計らいでわずか8日ほどで韓国に入国できたのに比べて、私たち夫婦は、中国から日本に入国するのにほぼ1年ぐらいかかった。

 振り返ってみると、自分の人生に対する自立意志が強い彼女は、韓国に入国して勉強から頑張った。勉強ができればできるほど奨学金をもらうので、お金をもらうためにもっと勉強し、勉強したいという願いを叶え、自分の価値を高めた。そこに人生の希望をみつけた。

 政府の政策が良ければ自立心は育つが、成功したいという個人の意志もさらに重要だという気がした。

 

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