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【News127】「与党大敗の韓国国会選挙の意味 尹錫悦大統領 少数与党での政権運営は前途多難」 拓殖大学 海外事情研究所助教 梅田皓士

韓国では、4月10日に国会議員選挙が実施された。その結果、保守系の与党・国民の力は108議席と伸び悩む一方、革新系の最大野党・共に民主党は175議席を獲得するなど、与党大敗という結果が出た。全議席が300議席のため、与党は改憲阻止ライン三分の一の死守には成功したが、前途多難が予想される。

与党大敗の背景 両陣営のネガティブ・キャンペーン

 今回の選挙では、野党の議席が多数を占める結果ではあるが、必ずしも野党の勝利ではない。正確には与党の敗北という表現がより今回の選挙を正しく捉えることができる。つまり、この一年間、与党や政府はことごとく「悪手」を繰り返してきた。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は政権発足時点から支持率が低い傾向にあった。これは大統領選挙で両陣営が互いにネガティブ・キャンペーンを展開したことで「どちらが良いか」ではなく「どちらがより悪くないか」が有権者の選択基準となったために、消極的選択で選ばれたのが尹錫悦大統領であり、政権発足当初から期待感も低かった。

 

 

政権運営のダブル・スタンダードに批判

 また、政権発足後には、自由、民主主義、法治などを政権運営の価値として、特に文在寅(ムン・ジェイン)前政権の元高官へは厳しい対応を取り、逮捕・起訴した事案もある。他方で、大統領夫人の「疑惑」や近い人物の犯罪への甘い対応などが「ダブル・スタンダード」との批判も強くあった。また、韓国国内の物価高などの民生問題も尹錫悦大統領への批判の原因となっていた。

 その中で、今回の選挙は尹錫悦大統領への中間評価と位置づけられるため、与党は尹錫悦大統領と一定の距離を置くことで尹錫悦大統領への批判を受けづらくし、選挙戦を通じて尹錫悦大統領に代わる有力な大統領候補である「次の権力」を作ることで次期大統領選挙に備える必要があった。この場合、尹錫悦政権はレームダック化するが、次期大統領選挙で保守政権を再創出できる可能性が強まる。

 

全党大会で「次の権力」を作る次期大統領選挙に備える思惑が批判を招く

 だが、与党は一年前の全党大会で尹錫悦大統領に近い人物を党代表とし、尹錫悦政府の下請け組織としての与党との性格を強めた。また、今回の選挙が近づくに連れ危機感を感じた与党は執行部が総退陣し、臨時党代表である非常対策委員長に韓東勲(ハン・ドンフン)を据えた。韓東勲は尹錫悦大統領の検事時代からの側近であり、政権発足時から法務部長官という要職を担っていた。その韓東勲を非常対策委員長にしたことで、尹錫悦大統領に対する批判を与党が真っ向から受ける状況を作った、結果として、低支持率の尹錫悦大統領の評価に引きずられる形で支持を広げられなかった。

 

 

脱北者出身議員の減少

 このように与党が「自滅」の道に走ったが、これまで、脱北者出身の現職議員として太永浩(テ・ヨンホ)、池成浩(チ・ソンホ)がいたが、今回の選挙の結果、比例で当選した元ミサイル技術者の朴沖綣(パク・チュングォン)のみとなってしまった。

前回の選挙では比例で当選した池成浩は首都圏の与党の基盤地域からの出馬を試みたが、公認00の0過程で脱落した。前回の選挙で与党の基盤地域で当選していた元北朝鮮駐イギリス公使の太永浩は選挙区を変え、劣勢地域からの立候補となり、落選した。

韓国の選挙では、日本とは大きく異なり、選挙の直前に候補者が決まり、選挙区の変更も頻繁に行われる。

 特にネームバリューがある候補は、劣勢地域からの立候補を求められる傾向にあり、比例も一回目の当選は比例であっても二回目に比例で公認されることは少ない。そのため、池成浩は選挙区への転出となり、太永浩は劣勢地域からの立候補となった。このことから、今回、比例で当選した朴沖綣も次回の選挙では選挙区からの立候補を求められる可能性が高い。

 しかし、この方法では、北朝鮮の人権、南北関係を活動の軸とする脱北者の国会議員は育ちにくい。そのため、特に保守政党は比例など複数回当選させる一定の枠を設けることも検討すべきであろう。北朝鮮を知る国会議員は韓国にとっても貴重な存在であることは言うまでもないことである。  

 

(注:中見出しは編集部)

 

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