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【News126】「韓国『帝国の慰安婦』に差し戻し判決」拓殖大学 海外事情研究所助教 梅田 皓士

 2023年10月26日に韓国の大法院(日本の最高裁判所に相当)は、『帝国の慰安婦』を執筆した朴裕河(パク・ユハ)世宗大学名誉教授に対して下されていた名誉毀損の有罪判決を高裁に差し戻す判断を下し、事実上、高裁での再審理を経て、無罪の判決が出る見通しとなった。

 

 

一審で無罪、二審で罰金による有罪 大法院は二審判決破棄、無罪判決の見通し

 これらの記述をめぐって、強制連行や旧日本軍などの組織的な暴力などを主張する人々が著者の朴裕河に対して、名誉毀損で提訴したことから始まった。その後一審では無罪、二審では名誉毀損を認めて一千万ウォンの罰金を命じる有罪判決が下された。今回の大法院の判断は、この二審の判決を破棄するものである。

 周知の通り、尹錫悦氏は大統領に就任して以降、日韓関係の改善を図っている。その一環として、旧朝鮮半島出身労働者問題(徴用工問題)について、韓国政府傘下の財団が日本の被告企業の賠償を肩代わりする「代位弁済」を行い、関係改善の動きを見せた。

 他にも司法においても、日本の寺院から盗み出された仏像をめぐって所有権を主張していた韓国の寺院の所有権を認めないとする判決も出た。このように、尹錫悦政権の発足に伴い、日韓関係にとって前向きな動きが韓国政府、あるいは、司法から出た。

 

(韓国最高裁、朴裕河教授に無事判決)

韓国司法の政治性 大法院長はどの大統領が任命したのか

 

 このような動きがでると、日本国内では、韓国司法の政治性について指摘されることが多い。この指摘は、韓国の司法は韓国政府の方針に従う傾向が強く、韓国政府の意向によって、判決が左右されるとするものである。そして、中には、韓国の三権分立が正しく機能していないとの指摘にもつながることもある。実際に、今回の判決についても、尹錫悦政権の対日関係改善路線と重ねる言説もある。

 筆者は、韓国の司法の政治性を否定するつもりはない。しかしながら、その「政治性」は、時の政府との関係による政治性よりも、大法院長(最高裁判所長官)をどの大統領が任命したかである。韓国では、大法院長は大統領が候補者を指名し、議会の同意を得て任命し、その大法院長は大法官(最高裁判所判事)を任命する。したがって、大法院長がどのような政治的な思想を持つかで大法院の判決が変わる可能性があるのである。そのため、注目の判決がある際には、「保守系何名、革新系何名」などとの議論が出る。しかしながら、この点は、米国と似たシステムであるため、韓国の司法が異常な訳ではない。

 

韓国の司法の特殊性 イデオロギーに基づいた法解釈

 他方で、韓国の司法の特殊性に言及するのであれば、司法も政治社会、市民社会と同様に、イデオロギー性が強いことである。ウリ法研究会、国際人権法研究会などの政治性がある集団が存在することである。そのため、革新系の大統領に任命された大法院長の場合、多くがこれらの政治性を持った大法官を選ぶ。逆に保守系の大統領に任命された大法院長の場合は、これと逆の選択をする。

 つまり、韓国の司法は時の権力の顔色を見て判決を左右させ得るのではなく、彼らなりのイデオロギーに基づいた法解釈で判決を下していると言える。なお、ここで留意しなければならないのは、日本にとって都合が良い判決が出た場合も同様の傾向があると言うことである。そのため、既述のように、日本にとって不利な判決が出た場合のみ非難するのは公平ではないことも付言したい。それがなければ、それこそ、政治的、あるいは、ダブル・スタンダードだろう。

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