北朝鮮への北送事業(帰還事業)で人権を侵害されたとして、北朝鮮から日本への脱北者5人が、昨年8月20日、北朝鮮を相手取り、計五億円の損害賠償を求める民事訴訟を東京地裁に起こした。弁護団によると北朝鮮政府を相手取った訴訟は初めてだと言う。訴訟に至った経緯などを、原告の一人川崎栄子さんに寄稿をお願いした。当基金は人権、人道上の立場からこの訴訟に深い関心を持ち、原告を支援している。(編集部)
北朝鮮は1959年12月14日から1984年まで「地上の楽園」と宣伝し、実施された在日朝鮮人と日本人配偶者ら家族の北朝鮮への集団移住・定住を推進した。日本政府や共産党をはじめ与野党が協力し、9万3340人(内1800人の日本人妻と6800人の日本国籍保有者を含む)の人達が北に渡った。そしてどんなことになったのか?
私自身が43年の年月を経て九死に一生を得て奇跡的に日本に戻ることがきたのですからその実情を正確に伝えることが大切な任務だと思っています。
金日成と北朝鮮政府が仕掛け、朝鮮総連の大々的な地上の楽園説に乗せられて北朝鮮に行った人々は北朝鮮に一歩足を踏み入れた瞬間から一切の自由と人権を奪われ奴隷状態に陥ってしまったのです。私たち原告は虚偽の宣伝にだまされて渡航し、長期間にわたって人権を抑圧され辛酸をなめ尽くしたのです。事業は国家的な誘拐行為で、現在も北朝鮮に残る家族と面会できないままなのです。
はじめに、人権と自由回復のために2015年1月15日、10名の脱北者と1名の在日朝鮮人が日弁連に「人権救済申立書」を提出しました。私たちは相手方として北朝鮮政府、日本政府、朝鮮総連、北朝鮮赤十字、日本赤十字、赤十字国際委員会を指名しました。要求事項は2つ、第1に「帰国事業」というものを実質的に実現させた6つの機関が、「帰国事業」が人道と人権の立場から間違っていたと認める事、そして謝罪声明を出して謝罪する事。第2に、日本から北朝鮮へ送り込まれた人本人とその配偶者、またその2世3世までを日本との自由往来を北朝鮮政府に認めさせる事、でした。
2番目は、2018年2月20日、オランダのハーグへ行って北朝鮮の金正恩と朝鮮総連の許正萬を国際刑事裁判所へ提訴しました。それは相手がどんなに大きな権力者であり国家であっても一人の人間の自由を奪い、人権を踏みにじる行為に対しては法の裁きを要求することができるという事を多くの人に知らしめるためでした。この提訴は受理されました。
3番目が「北朝鮮政府に『一人に一億円の損害賠償』を求める訴えを東京地裁に提訴」することでした。これには5人の脱北者が名を連ねました。東京で2名、大阪から3名が東京地裁に提訴しています。植民地支配国の国民であったという理由だけで筆舌に尽くしがたい差別と弾圧を受け続けて死んでいっている日本人妻たちがいます。このことを日本政府は分かってほしい。彼女たちは提訴することができない境遇なのです。
<注>民事訴訟法では、日本の裁判所が国際裁判の管轄を持つのは「不法行為が日本であった場合」とされているが、弁護団は虚偽の宣伝は日本国内で行われたとし、日本の裁判所で争える、と主張している。被告の北朝鮮側は裁判には出てこない可能性が大きいので、原告側の訴状を審理し、結審は今年前半になると弁護団は想定している。
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